消費者金融のカードローンなど、お金を借りる方法は幾つも存在していますが、「国」や「地方自治体」などの公的機関から融資を受けることが可能であることはご存じでしょうか?
お金を借りる際にはトラブルに備えて慎重になることを求められますが、国からの借り入れとなれば多くの方が安心して利用できるはずです。
また消費者金融や銀行など民間金融機関からの借り入れが難しい状況でも、国や地方自治体からであれば、お金を借りられる可能性があります。
この記事では、そんな「国からお金を借りる方法」について、それぞれの選択肢の概要や特徴を解説させていただきます。
公的融資と民間融資の違い
都市銀行や地方銀行、消費者金融など民間企業から受ける融資を「民間融資」と呼び、国や地方自治体などの公的機関から受ける融資は「公的融資」などと呼ばれます。
公的融資を行う機関としての代表的な存在である「日本政策金融公庫」は、基本理念を以下のように定めています。
国の政策の下、民間金融機関の補完を旨としつつ、社会のニーズに対応して、種々の手法により、政策金融を機動的に実施する。
引用:日本政策金融公庫「基本理念」
この中でも重要なのは「民間金融機関の補完」という文章であり、同様に公的融資の多くは、民間の金融機関での融資を受けにくい状況の方や事業者を、主な融資対象としています。
民間の金融機関はあくまで利益を追求しているため、返済能力が低いなど融資を行うリスクが高いと判断されてしまうと、融資対象となるのは難しくなってしまいます。
ですが、それでは日本の経済発展などは難しくなりかねず、公的機関による融資がその問題解消に役立っています。
つまり民間融資と公的融資は競い合うのではなく、補完しあう関係にあるのです。
公的融資と民間融資の比較
利用対象となる難易度 | 審査通過の難易度 | 金利 | 融資スピード | 手続きの手間 | |
---|---|---|---|---|---|
銀行 | 中 | 高 | 低い | 数週間から1ヵ月程度 | 多い |
ノンバンク系 | 低 | 低 | 高い | 即日融資にも対応可能 | 少ない |
公的機関 | 高 | 低 | 非常に低い | 1ヵ月から半年 | 多い |
上記の表は、民間融資の主な借入先となる銀行と消費者金融などのノンバンク系、そして公的機関からの借り入れを簡単に比較させていただいたものです。
もちろんノンバンク系であっても各社サービスに特徴があり、この表が必ずしも当てはまるとは言えず、銀行融資や公的融資の各制度も同様となるため、あくまで参考程度とお考えください。
しかしノンバンク系は素早い借り入れが可能ではあるが金利が高くなる傾向があり、銀行は低金利・高額融資の期待があるものの審査通過のハードルが高い傾向があるのは事実です。
公的融資は「金利と審査通過のしやすさ」が大きなメリット
公的融資を利用する最大のメリットは、金利の低さです。
様々な制度が公的融資には存在しており、選んでいただいた制度によって異なりますが、多くは銀行融資と比較しても低金利であり、さらに10年以上などの長期返済が可能となっている制度も少なくはありません。
つまり小さな負担でコツコツと返済を進めていただくことができるのが、公的融資の大きな特徴となります。
また、しっかりと準備をした上で手続きを行うことができれば審査通過はそれほど難しくはなく、銀行やノンバンク系での審査通過ができなかったという方や事業者も、公的融資の審査には通過できたという例は数多く存在しています。
「手続きの複雑さと融資実行までの期間」が公的融資の注意点
公的融資の多くは民間融資と比較して提出書類が多く、実査に融資を受けるまでに長い期間を必要とすることが多い点には注意が必要です。
緊急事態に対応できる制度も存在していますが、公的融資の多くは融資実行までに数カ月から半年などの期間がかかるため、急ぎの状況に頼りになるとは言えません。
また審査通過の難易度が高くないことが公的融資のメリットとなりますが、各融資制度は利用対象となる条件が細かく定められている場合も多く、必ずしも利用できる制度があるとは限りません。
適切な制度を見つけるのに時間と労力が必要になる可能性がありますので、制度選びに迷った際には、市役所や日本政策金融公庫などに相談していただくことをおすすめいたします。
「生活福祉資金貸付制度」は生活費確保に役立つ個人向け公的融資制度
公的融資は大きく「個人向け」と「事業者向け」の2つに分けることができます。
個人向けの公的融資の多くは、生活費など日々の暮らしに必要な現金が不足気味の方への支援を目的としたものであり、その中でも代表的な融資制度となるのが「生活福祉資金貸付制度」です。
生活福祉資金貸付制度は様々な状況に対応することができ、生活に不安を抱える方の多くが利用対象となれる融資制度です。
同制度では、失業や減収などにより生活が困窮しているかたに対し、生活費や一時的な資金の貸付けを行う「総合支援資金」が設けられています。総合支援資金を利用するかたには、生活困窮者自立支援制度の支援も併せて行い、生活の立て直しを包括的にサポートします。
引用:政府広報オンライン「生活にお困りで一時的に資金が必要な方へ「生活福祉資金貸付制度」があります。」
政府は生活福祉資金貸付制度について、上記のような情報発信を行っています。
日々の生活資金面に不安がある方は、各市区町村の社会福祉協議会へ一度ご相談ください。
ここからは生活福祉資金貸付制度について、さらに詳しく解説させていただきます。
「生活福祉資金貸付制度」は低所得者・高齢者・障害者の支援を目的とした貸付制度
生活福祉資金貸付制度を活用し国からお金を借りるためには、まず下記の3つの条件のいずれかに該当している必要があります。
引用:厚生労働省「生活福祉資金貸付制度」
- 低所得者世帯—必要な資金を他から借り受けることが困難な世帯(市町村民税非課税程度)
- 障害者世帯—身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者等の属する世帯
- 高齢者世帯—65歳以上の高齢者の属する世帯
この中では特に「低所得者世帯」に関する条件は判断が難しいかも知れませんが、目安としては以下のようになります。
- 単身—年収100万円以下
- 夫婦のみ—年収135万円以下
- 夫婦と子供1人—年収205万円以下
- 夫婦と子供2人—年収255万円以下
住民税の非課税対象となる限度額はお住まいの地域によって異なるため、上記に該当していたとしても低所得者世帯として扱われない可能性があります。
また共働きかどうかによっても条件が変動する場合もあり、正しく判断を行うためには、一度お住まいの市区町村役場などでご確認ください。
「生活福祉金貸付制度」の貸付資金の種類
- 総合支援資金(生活支援費・住宅入居費・一時生活再建費)
- 福祉資金(福祉費・緊急小口資金)
- 教育支援資金(教育支援費・就学支度費)
- 不動産担保型生活資金(不動産担保型生活資金・要保護世帯向け不動産担保型生活資金)
生活福祉金貸付制度での貸付資金の種類は上記の4種となっており、利用目的や貸付条件によって、さらにカッコ内のように細かく分けられています。
また制度によっては連帯保証人が必要になる場合もありますが、連帯保証人を立てずとも借入申込は可能です。
ただし連帯保証人が原則必要な融資制度では、保証人ありの場合は無利子での融資が受けられますが、保証人なしの場合は年1.5%の利息が発生するなど、貸付条件に違いが出る可能性があるため、少し注意が必要です。
続いては生活福祉金貸付制度の各貸付資金の中で利用される方が多いと思われる制度について、詳しくご紹介させていただきます。
生活の立て直しに最適な「生活支援費」と「一時生活再建費」は併用も可能
生活支援費 | 一時生活再建費 | |
利用目的 | 生活再建までの間に必要な生活費 | 生活再建のために一時的に必要であり、日常生活費で賄うのが困難な費用 |
貸付限度額 | 単身:月15万円以内、2人以上:月20万円以内 (貸付期間:原則3ヵ月※最長1ヵ月) | 60万円以内 |
生活の立て直しを目的とした生活費用や資金が必要な場合には、総合支援資金の「生活支援費」や「一時生活再建費」が役立ちます。
どちらも6ヶ月を上限とした据置期間があり、据置期間経過後10年以内が償還期限となっていますので、融資を受けた直後から返済する必要もなく、コツコツと返済を進めていただくことが可能です。
また保証人ありの場合は無利子で融資が受けられ、保証人なしでも年利1.5%という低金利となることから、利息が発生する場合でも民間金融機関からの借り入れと比較して返済の負担は小さくて済む可能性が高くなります。
2つの融資制度は利用目的に合わせて使い分けていただく必要がありますが、「生活支援費」と「一時生活再建費」を併用していただくことも可能です。
「緊急小口資金」は生活の維持に急を要する状況向けの少額融資
利用目的 | 緊急かつ一時的に生計の維持が困難となった場合の費用 |
貸付限度額 | 10万円以内 |
据置期間 | 2ヵ月以内 |
返済期間 | 据置期間経過後12ヵ月以内 |
貸付利子 | 無利子 |
保証人 | 不要 |
福祉資金に含まれている「緊急小口資金」は、最短であれば申込手続きの完了後5日程度での融資も可能となっており、融資までに長い期間が必要となることが多い公的融資の中ではスピード面で優れています。
さらに保証人不要で無利子での融資が受けられることから、緊急を要する状況で役立つだけでなく、融資を受けた後の返済計画も立てやすい制度となっています。
しかし融資を受けられる額が最大でも10万円と少額であり、また2カ月の据置期間を合わせても14カ月が最長の返済期間となる点には注意が必要となります。
就学費用が不足しなそうなら「教育支援費」の活用を
利用目的 | 低所得世帯に属する者が、高等学校・大学・高等専門学校のいずれかに就学するための費用 |
貸付限度額 | 高校:月3.5万円以内、高専・短大:月6万円以内、大学:月6.5万円以内 ※特例あり(上限の1.5倍の貸付) |
据置期間 | 卒業後6ヵ月以内 |
返済期間 | 据置期間経過後20年以内 |
貸付利子 | 無利子 |
保証人 | 不要(世帯内での連帯借受人が必要) |
「教育支援費」は就学費用として毎月最大6.5万円の貸し付けが受けられる融資制度であり、無利子で最長20年という長期返済も可能となっています。
また教育支援費が含まれる教育支援資金の中には、入学の際に必要となるまとまった費用を対象とした「就学支援費」も用意されており、こちらは貸付限度額50万円以内、その他の条件に関しては教育支援費と同様で貸付が受けられます。
どちらの融資制度も低所得者世帯を対象としているため収入面での制限がありますが、毎月の就学費用または入学時に必要な費用の確保を目的とするかで、使い分けていただくこともできます。
不動産を有する高齢者世帯は「不動産担保型生活資金」が利用しやすい
利用目的 | 低所得の高齢者世帯に対しての、一定の居住用不動産を担保とした生活資金の貸付 |
貸付限度額 | 土地の評価額の70%程度で月30万円以内 |
据置期間 | 契約終了後3ヵ月以内 |
返済期間 | 据置期間終了時 |
貸付利子 | 年3%または長期プライムレートの利率の低い側 |
保証人 | 必要(推定相続人から) |
65歳以上の方と生活を共にしており不動産担保をお持ちであれば、「不動産担保型生活資金」により日々の生活費を賄っていただくことが可能です。
しかし「不動産担保型生活資金」は生活福祉金貸付制度の他の融資制度とは違い、保証人ありでの契約が原則であり、さらに貸付利子も低金利ではありますが発生します。
また貸付期間が「借受人の死亡時までの期間または貸付元利金が貸付限度額に達するまでの期間」となっており、据置期間となる「契約終了後3ヵ月以内」が償還期限にもなっているため、随時返済計画を考慮しながらの利用が求められます。
生活福祉資金貸付制度以外の個人向け公的融資4選
国や地方自治体からお金が借りられる公的融資は、生活福祉金貸付制度以外にも数多く存在しています。
これからご紹介する公的融資は、特定の目的や状況に当てはまる方を対象とした制度となってはいますが、生活費の確保などに役立つ制度ばかりですので、対象となれる方は活用をご検討ください。
ひとり親世帯が対象の「母子父子寡婦福祉資金貸付金制度」は幅広い用途に対応
こども家庭庁が所管省庁となっている「母子父子寡婦福祉資金貸付金制度」は、ひとり親として20歳未満の児童を扶養している方を対象とした融資制度です。
お住いの地域の市役所など地方公共団体の福祉担当窓口に問い合わせていただくことで、下記させていただく様々な目的に対しての融資を受けることが可能となります。
- 事業開始資金—事業を開始する際に必要な設備などの購入資金
- 事業継続資金—現時点で営んでいる事業を継続するための運転資金
- 就学資金—高校・高専・短大・大学・大学院・専修学校に就学するための資金
- 技能習得資金、修業資金—事業や就職に必要な知識・技能を得るために必要な資金
- 就職支度資金、就学支度資金—就職または就学する際に必要な被服などを購入する資金
- 医療介護資金—1年以内を期限として医療または介護を受けるための資金
- 生活資金—生活を安定・継続するために必要な資金(ひとり親になってからの期間などの条件あり)
- 住宅資金—住宅の購入や補修・改築などを行うための資金
- 転宅資金—住宅移転のための住宅の貸借の際に必要な資金
- 結婚資金—ひとり親世帯で扶養する20歳以上の子の結婚に必要な資金
「母子父子寡婦福祉資金貸付金制度」は、融資を受ける目的によって貸付限度額や償還期間などが異なります。
ですが多くは保証人ありであれば無利子、保証人なしでも年利1.0%という低金利で利用していただくことができますので、無理のない返済が行いやすいのが大きなメリットです。
「求職者支援金融資」は職業訓練給付金の受給者向け融資制度
求職支援制度を活用し職業訓練受講給付金を受給する予定の方は、「求職者支援金融資」によって、最大で月額10万円の融資を受けることができます。
求職支援制度は再就職・転職やスキルアップを目指す方を対象とし、生活支援給付金(月額10万円+通所手当)の受給と職業訓練(無料)の受講ができる制度ですが、受講期間中の生活費が不足しそうな状況には、求職者支援金融資が役立ちます。
- 職業訓練受講給付金の支給決定を受けた方
- ハローワークで求職者支援金融資要件確認書の交付を受けた方
この制度を利用していただくためには上記2つの条件をいずれも満たす必要があり、貸付条件は以下になります。
貸付限度額 | 月額5万円または10万円を受講予定訓練月数(最大12ヵ月) |
貸付利子 | 年利3.0% |
担保・保証人 | 不要 |
貸付額は生計を共にする別居の配偶者や子の有無などによって上限が変わるものの、担保や保証人不要で融資を受けることができます。
また求職者支援金融資は再就職を目指す方などにとって頼りになる融資制度ですが、訓練を途中で辞めた場合には1ヵ月以内にハローワークへの届け出などが必要になります。
期限を過ぎた場合には一括返済を求められますので、制度を利用する際にはご注意ください。
「フラット35」は国からお金が借りられる住宅ローン
「フラット35」は、政策金融機関の1つである住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して行う住宅ローンです。
公的機関である住宅金融支援機構が直接融資を行うのではないことから、フラット35は厳密には公的融資には該当しませんが、公的融資と民間融資の中間的な存在となります。
貸付限度額 | 100万円以上8000万円以下 |
返済期間 | 15年以上35年以下 |
貸付利子 | 全期間固定金利(資金受取時に決定) |
保証料 | 不要 |
借入条件は上記のようになり、金利は審査によって決定され2024年5月時点では、多くの方が年1.830%~年1.940%で融資を受けています。
また借入当初5年間の金利優遇があり、家族構成・住宅性能によっては金利が引き下げられる可能性もあります。
金利が上昇するリスクを考慮せずに返済が行えるのがフラット35の大きなメリットとなりますが、変動金利よりも総支払額が多くなる可能性もあるため、利用時には変動金利とフラット35のどちらを選ぶか、先を見据えた判断が重要となります。
「教育一般貸付(国の教育ローン)」なら一括で最大350万の教育資金融資が可能
日本政策金融公庫で申込みを受け付けている「教育一般貸付(国の教育ローン)」は、長期返済・固定金利が大きな魅力であり、教育が関係する幅広い用途に活用していただくことができます。
貸付限度額 | 子供1人につき上限350万円(海外留学など一定の条件を満たす場合は450万円) |
返済期間 | 18年以内 ※在学中は利息のみの支払いも可能 |
貸付利子 | 年利2.40%(2024年5月1日時点) |
連帯保証人 | 必要 ※(公財)教育資金融資保証基金からの保証でも可 |
教育一般貸付(国の教育ローン)では350万円を上限として、まとまった額の融資を受けることが可能ですが、下の表のように世帯収入の上限が利用条件に含まれている点に注意が必要です。
子供の人数 | 世帯収入の上限となる額 |
1人 | 790万円 |
2人 | 890万円 |
3人 | 990万円 |
4人 | 1090万円 |
5人 | 1190万円 |
ただし子供の人数が2人以下の場合では、勤続年数が3年未満や居住年数が1年未満などの条件を満たすことで、上限が990万円まで緩和されます。
事業者向け公的融資は「日本政策金融公庫」が第一候補
ここからは事業者向けの公的融資を行う機関として代表的な存在となる、政策金融機関の1つである「日本政策金融公庫」の融資制度について解説させていただきます。
すでにこの記事の序盤で基本理念をご紹介させていただいていますが、日本政策金融公庫は民間金融機関の補完を大きな目的としており、銀行融資を受けにくい個人事業主や中小企業への融資も積極的に行っています。
また同じく融資を受けるのが難しいと言われる創業資金の調達先を探している経営者様にとっても、日本政策金融公庫は非常に頼りになる存在となります。
日本政策金融公庫は「国民生活事業・農林水産事業・中小企業事業」を業務の柱として行っており、この中でも国民生活事業と中小企業事業では、多くの事業者が利用しやすい融資制度が用意されています。
「国民生活事業」は個人事業主を含めた小規模事業者向け
国民生活事業は、地域の身近な金融機関として、小規模事業者や創業企業の皆さまへの事業資金融資のほか、お子さまの入学資金などを必要とする皆さまへの教育資金融資などを行っています。
引用:日本政策金融公庫「国民生活事業の業務の概要」
日本政策金融公庫の国民生活事業が行っている業務の概要は上記内容であり、主に個人事業主や従業員20人以下(商業・サービス業は従業員数5人以下)の事業者の多くが該当する、小規模事業者への融資によるサポートを事業の中心としています。
また個人向けの公的融資としてご紹介させていただいた、「教育一般貸付(国の教育ローン)」も国民生活事業による制度融資に含まれています。
- 融資実績は2023年時点で119万件以上
- 1000万円ほどの小口融資が主体
- 利用者の約90%は従業員10人未満の小規模事業者(個人事業主も多数)
- 創業企業への融資実績は年間約2万5500件
国民生活事業は小規模事業者への小口融資がメインとなりますが、創業資金の調達先としても多くの企業が利用していますので、これから事業を始めたいとお考えの経営者様は、まずは日本政策金融公庫の国民生活事業の活用をご検討ください。
中小企業は「中小企業事業」の融資制度の活用を
中小企業事業は、融資、信用保険などの多様な機能により、日本経済の活力の源泉であり、地域経済を支える中小企業・小規模事業者の皆さまの成長・発展を支援しています。
引用:日本政策金融公庫「業務の概要・特徴」
中小企業事業の主な利用対象は名前の通り中小企業であり、融資が主な業務となりますが、信用保証協会が行っている保証についての保険の引受けなども業務に含めています。
- 融資実績は2023年5月時点で約6万2000件
- 平均融資金額は約1億円、平均融資期間は約10年
- 融資先の約79%は従業員数20人以上、約91%は資本金1000万円以上
日本政策金融公庫の中小企業事業は、平均融資額が約1億円と高く、大きな額の資金調達先としても適しています。
ただし資本金1000万円以上・従業員数20人以上の企業が利用先の大半となっていますので、これらの条件に該当せず審査通過が出来なかった事業者は、国民生活事業へのご相談をおすすめいたします。
日本政策金融公庫の主な融資制度
日本政策金融公庫には数多くの融資制度が用意されており、様々な目的に適した制度を利用していただくことができます。
制度を見つけるためには、日本政策金融公庫のホームページ内にある「融資制度を探す」から「融資制度かんたん検索」などを活用していただくか、「融資制度検索」をご利用ください。
ここでは、そんな日本政策金融公庫で多くの企業が利用する可能性の高い、5つの融資制度を簡単にですがご紹介いたします。
「一般貸付」は中小企業のほとんどの業種が利用可能
ほとんどの業種が利用可能な「一般貸付」は、申込条件が細かく指定されておらず、金融業や娯楽業などの一部業種を除く多くの中小企業が対象となれる融資制度であり、最大7200万円の融資を受けることができます。
運転資金 | 設備資金 | 特定設備資金 | |
融資限度額 | 4800万円 | 4800万円 | 7200万円 |
返済期間 | 5年以内(場合により7年) | 10年以内 | 20年以内 |
据置期間 | 1年以内 | 2年以内 | 2年以内 |
貸付条件は資金使途によって上記にようになりますが、融資限度額だけでなく返済期間も異なります。
また日本政策金融公庫での据置期間は全て償還期限内に含まれますので、ご注意ください。
貸付利子は資金使途に関わらず「基準利率」となっており、税務申告を終えている期数や担保の有無によって2024年5月時点では以下のように利率が変わります。
無担保(税務申告2期以上) | 2.25%~3.45% |
無担保(税務申告2期未満) | 2.50%~3.70% |
有担保 | 1.25%~3.05% |
一般貸付は、日本政策金融公庫の事業者向け融資制度の中でも基本となる制度となりますので、まずはこの制度の活用についてご検討ください。
「一般貸付(生活衛生貸付)」は飲食店を含む生活衛生業の店舗改装費用などに利用可能
生活衛生業を営む方や生活衛生関係の学校を経営する方を対象に、店舗の改装資金などの設備資金へ利用可能な融資を行うのが、「一般貸付(生活衛生貸付)」です。
引用:厚生労働省「生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律概要」
- 1.飲食店営業
- 2.喫茶店営業
- 3.食肉販売業
- 4.氷雪販売業
- 5.理容業
- 6.美容業
- 7.興行場営業
- 8.旅館業
- 9.公衆浴場業
- 10.クリーニング業
「生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律」で定められている、上記10の業種が生活衛生業と呼ばれており、「一般貸付(生活衛生貸付)」は業種によって融資限度額などが異なります。
業種 | 融資限度額 |
飲食店営業・喫茶店営業・食肉販売業 食鳥肉販売業・氷雪販売業・理容業 美容業・その他公衆浴場業 | 7200万円 |
一般公衆浴場業 | 3億円 ※2施設以上の場合4億8000万円 |
旅館業 | 4億円 |
興行場営業、サウナ営業 | 2億円 |
クリーニング業 | 1億2000万円 |
返済期間は一般公衆浴場は30年以内、その他の業種に関しては13年以内となっており、返済期間内に最長2年の据置期間が利用可能です。
また貸付利子は業種や状況により幅があるため、確認が必要となります。
利用対象は生活衛生業に限定されるものの、ほとんどの業種を対象とする一般貸付よりも高額融資も期待できますので、状況に応じて最適な選択肢をお選びください。
「マル系融資」は商工会などからの経営指導を受けている事業者が対象
お住まいの地域の商工会や商工会議所から経営指導を受けているという事業者は、「マル経融資(小規模事業者経営改善資金)」が利用できる可能性があります。
運転資金 | 設備資金 | |
融資限度額 | 2000万円 | 2000万円 |
返済期間 | 7年以内 | 10年以内 |
据置期間 | 1年以内 | 2年以内 |
保証 | 無担保・無保証人 | 無担保・無保証人 |
貸付利子は「基準利率F」となっており、日本政策金融公庫の他の融資制度と同様に時期や社会情勢によって利率が異なる可能性がありますが、2024年5月時点での利率は「1.35%」となっています。
引用:東京商工会議所「マル経融資」
- 従業員20人以下(宿泊業と娯楽業を除く商業・サービス業は5人以下)の法人・個人事業主
- 商工会議所の経営・金融指導を受けて事業改善に取り組んでいる
- 最近1年以上、同一会議所の地区内で事業を行っている
- 商工業者であり、日本政策金融公庫の融資対象業種を営んでいる
- 税金(所得税、法人税、事業税、住民税等)を完納している
一般貸付と比較しても貸付利子が低く、最大2000万円までの融資が受けられるマル経融資ですが、利用対象となるには商工会議所などから推薦を受ける必要があり、そのためには上記させていただいた5つの条件をすべて満たしていることが求められます。
事業改善指導に関しては6ヵ月が目やすと言われており、他の融資制度と比較して利用のハードルが低いとは言えませんが、先を見据えて経営指導を受けるなど計画的に利用できれば、非常に頼りになる制度となります。
創業資金の調達には「新規開業資金」が役立つ
これから事業を開始したいとお考えの場合や事業開始後おおむね7年以内の経営者様は、「新規開業資金」により最大7200万円の融資を受けることが可能です。
また、これまでは創業資金の調達には「新創業融資制度」の利用を検討される経営者様も多くいらっしゃいましたが、2024年3月をもって新創業融資制度は廃止となりました。
このため多くの状況において、新規開業資金が創業時の資金調達時には第一の選択肢となります。
運転資金 | 設備資金 | |
融資限度額 | 4800万円 | 7200万円 |
返済期間 | 10年以内 | 20年以内 |
据置期間 | 5年以内 | 5年以内 |
新規開業資金の貸付利子は「基準利率」となっており、担保の有無や税務申告を何期終えているかなどによっても設定される数値は異なります。
しかし以下のいずれかに該当する場合では、特別利率が設定されます。
- 女性、若者/シニア起業家支援関連—女性の方、35歳未満または55歳以上の方
- 再挑戦支援関連—やむを得ない理由での廃業履歴があり、負債がある程度整理される見込みのある方
- 中小企業経営力強化関連—「中小企業会計」を適用する予定があり事業計画書の策定などを自ら行う方
上記の項目以外にも特定外国人起業家に該当する方や地方にUターンして事業を始める方など、特別利率で融資が受けられる条件は存在していますので、日本政策金融公庫のホームページなどで情報をご確認ください。
一時的な経営の悪化には「セーフティネット貸付」が役立つ
何らかの理由によって一時的に資金繰りの悪化や売上の低下などが発生している場合には、「セーフティネット貸付」によって経営状況の改善が可能です。
セーフティネット貸付の利用対象となるのは、主に以下の3つのいずれかに該当する企業となります。
- 金融環境変化対応資金—金融機関との取引状況の変化が資金繰りに影響を与えている企業
- 経営環境変化対応資金—経済的環境または社会的環境の変化によって業績が一時的に悪化している企業
- 取引企業倒産対応資金—取引を行っていた企業の倒産によって経営に影響を受けている企業
セーフティネット貸付は主に小規模事業者が利用する国民生活事業と、中小企業を対象とした制度融資が多い中小企業事業の両方で利用することが可能ですが、貸付限度額などに違いがありますのでご注意ください。
ですが、どのセーフティネット貸付にも最大3年間の据置期間が設定可能となっているなど利用価値が高いのは確かであり、経営状況の悪化などにお悩みの経営者様はご利用をご検討ください。
公的融資を活用するための3つのポイント
国や自治体からお金を借りる「公的融資」は、民間の金融機関からの借入が難しい状況の方や事業者にとっては非常に頼りになる存在です。
しかし公的融資には民間融資とは違った特徴があり、準備や手続きを進める際に注意していただきたいポイントがあります。
これからご紹介する3つのポイントを意識していただくことで、公的融資に成功できる可能性が高まります。
時間的な余裕を持って手続きを行う
公的融資は、民間融資と比較して手続きに時間がかかりやすいのが注意点の1つです。
申し込んだ機関や融資制度によって大きく異なる可能性もありますが、大半は1ヵ月程度の期間が必要であり、審査が長引くなどした場合には数ヵ月から半年もの期間がかかることもあり得ない話ではなくなります。
そのため資金ショート目前という状況での公的融資は最適な選択肢にはなりにくく、比較的審査通過しやすく短時間での融資が受けられるビジネスローンやカードローンなどで「つなぎ資金」を確保するなどが必要となります。
融資までの期間を短く見積もって求めるタイミングに間に合わなくならないよう、時間的な余裕をもって手続きを行っていただくことが重要です。
提出書類の準備をスムーズに不備なく行う
民間融資であっても公的融資であっても、必要な提出書類の準備が遅れてしまった場合には、審査を行うことができず資金調達に必要な時間を長引かせることになりかねません。
また提出書類に記載された事項に事実ではない内容が含まれていた場合や、必要な情報が不足していた場合には、審査結果に影響を与え貸付条件が悪化してしまったり、審査落ちに繋がってしまったりする危険を高めてしまいます。
書類提出をスムーズに不備なく行うことは、民間融資・公的融資問わず大切なポイントとなりますが、手続の手間が大きく必要書類も多数であることが少ない公的融資においては、より影響が大きくなる危険性があります。
事業者は補助金・助成金の利用も検討する
日本政策金融公庫など公的融資の活用をご検討中の事業者の中には、低金利や安全性を借入先に求めている企業や、民間融資で利用対象になることが難しい企業が少なくないかも知れません。
しかし、それらの理由であれば「補助金・助成金」も利用を検討していただく対象となります。
補助金は審査に通過する必要がありますが、助成金は一定の要件を満たせば原則的に支給を受けることができます。
さらに補助金・助成金ともに返済の必要がないため、資金調達後の負担は非常に小さくて済みます。
しかし多種多様な制度が用意されてはいるもの、常時申込みが行える制度が常にあるとは限らず、多くの制度で後払いとなるため、資金不足の対応には適さない点には注意が必要です。